◎ 雲屋 ◎



 雲屋様へのご依頼。

 冬の雲をお願いします。
 報酬はいつもの御代。
 北風の匂いがする頃にお伺いします。
 よろしくお願いします。



そんな手紙が来たのは丁度紅葉がひらひらと窓の外で散る頃だった。
秋の報酬の赤葉の紅茶を飲みながらコウノトリが届けた手紙を受け取る。


「あぁ、今年最後の仕事が来たね。」

言いながら紅茶を飲む彼は『雲屋』。
本当は職業なのだが、いつもこう呼ばれるので彼自身名前を忘れてしまった。

手紙をもう一度読み返してから一息吐く。
紅茶がそろそろ底を尽きるのと室内の暖炉の木がはぜる音は
秋が足早に過ぎていき、冬が急激に現れる合図なのだと彼は知っている。

もう数年もこの生活を続けているので気持ちに幾分か余裕はある。
けれども、今年の冬の為の雲の材料の調達もまだだし
道具は倉庫に置きっぱなしだ。

やはり今年も慌てて準備を始める事になりそうである。





「いつも君はあれがないだの、これがないだの慌てるのだから
 今年くらいはゆったりできるようにしたらどうだい?」


そう季節を伝える為の砂時計の言葉が彼の耳に届く。
彼は紅茶を飲み、そしてアップルパイを一口頬張ると余裕ある顔をしてこう言った。

「慌ててはいるけれども、別に嫌いではないんだよ
 今年も変わらずこうしているんだなって実感できるからね。」

そうアップルパイを口に入れながら喋る彼に汚いと砂時計が金切声をあげた。
彼はやはり余裕のある顔をして紅茶でそれを飲み下すとふっと一息ため息を漏らした。

「今年はこうしているけれども、いつかこの仕事が無くなった時僕はどうしているのだろう。
 時々そういう事を考えるんだ。」

紅茶の匂いと共にぽつりぽつりと独り言の様に言葉を落としていく。
砂時計はそれを気にする様子も無く、何事も無く、言ってのけた。

「君のその終わりを見てしまう癖はまだ直っていないんだね。
 去年の冬もそんな事を言っていたし。
 僕は君の仕事に終わりは無いと思うよ。
 君がこの仕事を続けていたいのなら君の思う限りに続けられる。
 もし仕事をやめてしまってもその時は、君は君でどうにかやってるんじゃないの?」

それを聞きながら彼もそういえばこれも毎年だなと気付いて苦笑する。


「何事にも永遠は無いからね。
 僕はいつか死んでしまうしこの仕事も無くなる時が来るだろう。
 その終わりの時に何を考えて、何を思って終わるのかがとても気になるんだ。」

アップルパイをもう一切れ食べるか、食後の為にとっておくかで彼は悩みながら
その後に続く砂時計の言葉を聞く。

「そんな事僕は知らないよ。君の将来の姿なんて誰もわからないだろう?
 わからないからこそおもしろいと僕は思うんだけどなぁ。
 まぁ君の価値観によりけりだけれども。
 まぁ、来るべき時を見るんじゃなくて今しかない今を楽しむのもありなんじゃない?」

それを聞いて雲屋はそうだねと答えてから
彼にとっては大きな悩みの種であったパイをお皿に移す。
 


「食後にとっておくんじゃなかったの?」

不思議そうな砂時計の声にやっぱり彼は余裕のある笑顔で

「先を見るよりも今を楽しむのさ。」


そう言ってアップルパイを頬張った。
























                                        2005/12/07 執筆